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こんな立て札を、種子島の海岸のあちこちで見かけた。漁協がナガラメ(トコブシ)の稚貝を放流しているのだ。ところがそれを密漁する者がいるという。 「いやあ、サーファーや観光客なら、採ってってもせいぜい自分が食べるくらいだろ」 久保田川近くの海岸で出会った漁師は、苦笑いで言った。 「ここで放流をやってるって知ってるもんが、どっさり採っていくんだ。料理屋とかに売るのにね。俺らの苦労を知らんのか、知っていても知らんぷりしてるのか」 漁師は大きなためいきをついた。おなじ島で暮らす者が、密漁しているというのだ。 「勝手にひとの畑に入って、でけたもんを黙って採っていくみたいなもんだろ。だから情けないけどこんな看板を建てんなならんのだ」 彼が指さす方を見ると、小さな看板が立っていた。 「ナガラメトルナ 海岸への立入を禁ず!」 強い語調で書かれていた。 「海は俺らのもんだあって思ってる漁師はたくさんいる。でも、あんたらからすると、海岸に入るなっていうのは、どうも納得でけんだろ。どうだい?」 「ええ、まあ、放流されたものを勝手に採るなっていうのはわかるけど……」 「ああ、その通りだ。言いたいことはわかるよ。だけど、俺ら漁師にとっては海は生活の場なんだよ。あんたらみたいに遊ぶために海に入るんじゃないんだ。そこを踏み荒らすなっていうことなんだ。あんた、ひとの畑に勝手に入らんだろう」 「……」 ぼくは自分が責められているような気分だった。その場所を生活の場にしているひとにとっては、観光地であろうが何であろうが関係ない。しかし、そんなことは旅を続けている間にすぐに忘れてしまう。旅は自分にとっては非日常だが、他人の日常に入っていくということでもあるのだ。 「種子島へ 拒めない海」2000年6月刊 再海社 |
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