24)6:満天の星
 
 

新しい道、広い道が敷かれ、耕地の整理が進み、田園の風景もどんどん人工的、直線的になっていく。その中をずんずん歩く。
残りの四キロをどれほどの時間で歩いたのか。気がつけば上中の市街地に入っていた。前日の三十キロというのがきいているようだ。十六キロはあっというまだった。

時計は午後三時をまわったばかりだ。宿をさがそう。ちょっと早いけれど、足を投げ出して、ビールでも飲もう。温泉でもあったら最高だな、などと一人でにんまりしていた。
パン屋の公衆電話の電話帳を取り、ペラペラとめくる。またまたおばさんが出てきた。

「なにをさがしてるの?」
「宿を……。どこかおすすめありませんか。温泉があるとか」
「温泉ならそこのホテルにあるけど……」おばさんはぼくの身なりを一瞥する。「でも、高いわよ。一泊二食で一万円以上よ」

それは高い。許容範囲をはるかに越えていた。

「でもね、温泉はお金さえ払えばだれでも入れるから、どっか安い民宿に泊まって、温泉だけ入りにいくのがいいよ」
「だれでも入れるんですか」
「もちろんお金はいるわよ」
「民宿はどこがいいですかね?」

彼女は知り合いの民宿を教えてくれて、電話までかけてくれた。ところが、「食事は外でするから素泊まりでいいよ」と勝手に決めてしまう。弱ったなという顔をしていると、笑いながら言った。

「晩ご飯はね、温泉の食堂、レストランていうの? そこですますといいわ。居酒屋とか料理屋に行くより安いし、もちろん民宿よりも安い。味もいいしね、なによりも生ビールがあるよ」

なるほど、そいつはうれしい。ぼくはさっそく民宿で荷物をおろすと、タオルを一枚ぶら下げてその温泉に出かけた。
時間が早かったせいかもしれないが、入浴客はぼくのほかにはだれもいなかった。ぼくは、ひろい温泉を独り占めで楽しんだ。思いっきりからだを伸ばし、筋肉をほぐし、そしてだらける。たっぷり一時間半、徹底的に楽しんだ。そして生ビール。だから旅はやめられない、と勝手なことを思ってしまう。

民宿にもどったらおやじさんが、ゆっくりだったねと笑っていた。
夜、外に出た。街灯のない暗い場所をさがして歩いた。
都会を離れて旅に出ると、ぼくはいつも、星を見ることをひとつの楽しみにしていた。だが、この種子島の旅ではここまでずっと街中にいるか、雨だった。温泉からの帰り、夜空を見上げると星がわずかだが瞬いていた

少しは晴れているのかもしれない。チャンスかなと思って外に出たのだ。
だけど、だめだった。空はずっと目を凝らしても、真っ黒なままだった
分厚い雲が邪魔をしているにちがいない。この旅を終えるまでに、満天の星を見ることができるだろうか。
雲を突き抜けられない苛立ちを感じながら、民宿にもどった。


「種子島へ 拒めない海」2000年6月刊 再海社
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