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さみしさにめげたぼくは、公衆電話の受話器を上げ、タクシー会社の番号をまわしていた。そのままずっと独りでバスを待っているなんて、耐えられないなと思ったのだ。 「十五分ほど待ってもらえますか」 電話の向こうで配車係が言った。 「ええ」 タクシーは、その日ぼくが歩きはじめた上中からくるらしい。十五分くらいなんでもないと、ぼくは思った。でも、十五分とかからずにタクシーは現れた。 「あら、あんた、西之表からずっと歩いてたひとだねえ」 乗り込もうとしたぼくを見て、運転手のおじさんが笑った。 「ええ」 豪傑か……。ぼくは思った。この道のりで出会ったひとと何度となく話したことだが、今はもう歩いて旅をするなどというひとは少なくなったということだ。ぼくは、上中のバスの発着所まで行ってくれと頼んだ。 「あれ、帰りは歩かんの?」 ぼくたちはおたがいをルームミラーのなかに見て、会話を続けた。 「昔はね、交通手段がなくてね」ルームミラーの彼が笑っている。 「観光でこの島にきたひとは、よく歩いたもんだ。タクシーに乗る前は、車で走っててあんたみたいな旅行者を見かけたら、必ず乗せてやったもんだけど」 彼は大声を上げて笑った。 「バスで十分です。その方が楽しいし」 彼はふたたび大声で笑った。 「旅行ですか」 彼女は大きなバッグを一つ、足元に置いていた。 「あなたも旅行ですか?」 ぼくがたずねると、彼女は少しはにかんだように笑った。 「いいえ。鹿児島で就職が決まって……」 おじいさんも彼女の方を見て笑っていた。 「おじいさんはどちらへ?」 黙っているときはにこやかなのに、話すときはちょっと厳しい表情になるが、好々爺といった感じだ。 「病院ですか?」 タクシーの運転手の話が頭に残っていたんだ。でも、おじいさんはなにを言ってるんだという表情になった。 「孫が鹿児島からひ孫を連れて帰ってくる。港まで迎えに行くんだよ」 おじいさんはほんとうにうれしそうに笑った。 南種子と中種子の境、あのパン屋のおばさんが店の前を掃除していた。あのタンカンはとてもおいしかった。野間の町中では、居酒屋で出会ったおじいさんは、あの日とおなじように家の前に椅子を出して座っていたし、ぼくに傘を貸してくれた宿のおばさんは、買い物だろうか、商店街を歩いていた。必ずもどってこようと思った。 ぼくだけじゃない。鹿児島で就職するという彼女も、そう思っていたにちがいない。食い入るように外の風景に見入っていた。おじいさんはあいかわらず笑っている。もうすでに、孫との再会を、心の中で果たしたのかもしれない。 海岸線に出た。空はゆっくりと晴れつつあるようだ。海峡には光りがあふれていた。 「種子島へ 拒めない海」2000年6月刊 再海社 |
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