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ぼろぼろになった地図を片手に、港の手荷物預かり所へ行った。預けた荷物を引き取るためだ。 国道58号線を歩いて南下するために、不用な荷物を預けていたのだ。とてつもなく大きくて重いリュックサックだ。旅に出るときはいつもおなじスタイルだが、行く先々でいつもおなじように驚かれる。種子島ではなおさらだった。登山する山があるわけではないし、長期滞在の荷物だって、鹿児島本土と毎日船が行き来しているから、無理に一度に持って出る必要もない。まあ、都市を旅するのに辺境を旅するような恰好で出かけたわけだ。 「まあ、すごい荷物。宮之浦岳でも登ってきたの」 荷物を預ける時、預かり所のおばさんはそう言って目を白黒させた。屋久島に登山した帰りに種子島に寄ったと思ったのだ。 辺境を旅するときは、当然手荷物預かり所などあるはずはなく、旅を終えるまでそのばかでかい荷物を背負って歩き続ける。そういう意味では、種子島の旅はずいぶんとラクチンだった。 もちろんおばさんはぼくの顔を覚えていた。 「あらあら、お帰りなさい。おつかれさま」 手にしていた地図に目がいく。 「あら、その地図、ここであげた地図だね。ずいぶんぼろぼろになって。どちらへ行ってなさったの?」 ぼくは、58号線を島間の港まで歩いたと答えた。おばさんは、飛び出すんじゃないかと思うほど、大きく目を見開いた。 「へえ。驚いた! 島間まで歩きなさったの!」 叫び声に近かった。目の前にある三軒の売店から、ぞろぞろとおばさんたちが集まってきた。 「なになに……」 おばさんたちは、ぼくそっちのけで盛り上がっていた。ぼくは超過料金の百円をカウンターにおき、リュックを背負い上げた。帰りの船が出るまで二時間ばかりある。その時間、ぼくは港でぼうっと過ごすことにした。 埠頭に座り込んで海を眺めていた。待合所からは大きな騒ぎ声が聞こえてきた。観光客の小さな団体が酒を飲んで騒いでいた。きっとおなじ船に乗るんだ。そう思うだけで気が滅入った。船に乗るまではできるだけ離れていようと思った。 港の海は静かで、陽光を跳ね返し鏡のように光っていた。この分だと大隅海峡も、きっと凪いでいるだろう。 缶ビールを片手に男が歩いてきた。団体の一員だ。顔は赤くなっている。ごきげんのようだ。埠頭の端まで来るとビールを一気に飲み干した。 カン! 波が拒むような乾いた音をたてた。 二〇〇〇年四月 鹿児島で 清水哲男 「種子島へ 拒めない海」2000年6月刊 再海社 |
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