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苦味から味覚を考える

苦味物質が含まれた食品を口にした時の「苦い」という感覚。
「苦い」を含めて、ヒトの味覚について考えてみましょう。
味覚とは、味覚器官(味蕾;舌や口腔内にある味を感じる細胞)に刺激物質(「味」を含んだ物質、いわゆる飲食物)が接した時に起こる感覚のことを言い、味覚についての研究は、大変に古い時代から行われてきました。しかし、この研究は実際に非常に難しい仕事なのです。

まず、扱うものが味覚という、感覚的で主観的な対象であること。
そして、「味」というものは往々にして言語と深く結びついている、というところにあります。つまり、同じ物を食べてもその味を表現する言語を持ち合わせているか、どう表現するか、ということで分類の方法に影響を与えてしまうからです。
現在は化学的手法、物理的手法などで、ずいぶん普遍的な「味」の捉え方がされるようになりましたが、それでもなお、人によって、民族によって、言語や民族による食の慣習の違いから、味に対する特有の認識が存在するのです。

味覚の分類には様々な考え方があり、さかのぼれば古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、味を甘味、塩味、苦味、辛味、酸味、収斂味(渋味に相当する味)、ざらざらした味、この七つに分けていました。
現在も民族によって多くの分類法が存在しますが、およそ次のように分けられています。


この五つです。

五分類の中の「旨味」は20世紀以降の、新しい分類で、この味は日本で発見、研究されてきました。ですから、世界的にも旨味は「umami」と表現します。
ただ、この「旨味」、その名からして「おいしい味」と誤解されてしまうことがあります。
五味の中の「旨味」が指すものは、「おいしい」という主観的な感覚(感情)とは別のれっきとした味の一つ。

もともとは、こんぶのダシの美味しさに興味を持った池田教授(東京帝国大学理学部)が1908年、このうまさの成分がグルタミン酸(アミノ酸の一つ)である事を発表したことが、「旨味」を世に知らしめた最初でした。
その時にこのグルタミン酸の味を「こぶ味KOBUAJI」とでも名付けておいたら、先述のような誤解は避けられたかもしれない、なんて意見もあります。

「旨味」といえば、日本は旨味のかたまりのような調味料を持っています。
それは、しょうゆ・味噌。こういった発酵性調味料アミノ酸がとても多いんですね。日本だけでなく、東アジアでもこの穀醤(穀物を発酵させた調味料)は多く使われていますし、東南アジアの魚醤(魚の塩漬けを発酵させた調味料)も、それに然り。

先述の味の分類の中に「辛」が入っていませんが、これも意見の分かれるところです。
東南アジアなど、辛味に対して長い食の歴史を持つ地域では、「辛」はもちろん主要な「味覚」の一つであり、「辛」一つをとっても「口の痛い辛さ」「口の熱い辛さ」など、さらに細かく使い分けています。(味の認識と言語については後ほど述べます)
しかし、「辛味」というのは味覚を刺激する味では無く、痛覚を刺激するものなのだ、という考えからも五味とはまた別のカテゴリーとしましょう。
「辛」という文字そのものも、いれずみ用の針の形から発生したと考えられています。
やはり「辛いは痛い」のでしょうね。

このような民族間の食文化などの違いから起こる味の捉え方の差異を踏まえ、旨味をのぞく他の四つの味の概念は19世紀から、世界の共通味覚、として調べられてきました。

それぞれの味には、それぞれのメッセージを持っています。

・甘味…「糖が存在」エネルギーになる食品
・塩味…「ナトリウム、カリウムなどが存在」ミネラル源
・苦味…「毒になるものが存在」
・酸味…「腐ってる」腐敗物
・旨味…「アミノ酸が存在」たんぱく質を含んだ食品

栄養学など持ち合わせない古代のヒトは、甘味、塩味、旨味は栄養源のメッセージとして、酸味、苦味は危険物のメッセージとして受け取っていたのです。

その中でも苦味は「毒を含む」食品をあらわす味として、味の分類の中では危険物としての位置にあります。
ヒトは、受胎して12週目に既に成人と同じような形態の味蕾が形成され、3〜9ヶ月で味を感じる能力を得ると考えられています。
イスラエルの研究者が、新生児に様々な味のする溶液を与え、その表情から、甘味は喜んで受け入れ、酸味と苦味は拒否することを観察しました。
このことは、日常、赤ちゃんや子供と接する機会があれば、研究者ならずとも感じることでしょう。
実際、ゴーヤーにしても「子供の頃は嫌いだった」という人は多いはず。

「甘味は受け入れ、苦味や酸味は拒否する」という感覚は、ヒトが自分の身を守るために生得的に備わった反射的な機能なのです。
そのために苦味に対してはヒトは敏感です。
間違って危険な物を飲み込まないために他の味に比べ、苦味はほんの少量でも「苦い」と感じるようになっているのです。(閾値いきちが低い)


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