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上之古田港から、山間のサトウキビ畑の道を抜ける。畑と畑、そして山の間をヘビのようにクネクネと走る道だ。舗装されているが、道路というにはあまりにも細い。道端に荷車をひいた耕運機が停まっていた。が、人影はない。 「すみません。だれかいますか」 話が聞きたくて山の中に向かって声をかけてみたが、返事はなかった。何度かやってみたが結果はおなじだった。 「シャニンの葉ですよ」 F君が教えてくれた。 「料理をのせたりするんですけどね。これでおにぎりをつつむととっても香りがいいですよ。朝のうちに摘むのが香り、いいんです」 種子島中に自生しているという。なるほど、それからはどこを歩いていても、車で走っていても、たびたび目にした。 炭焼き 家内窯(よらいきがま) 車を停めて坂を上る。少し上ると階段の踊り場のような場所があり、窯の焚き口があった。だれもいない。窯はそこから斜面を這うように七、八メートル上っていた。ちょうど、陶器の登り窯をひとまわり小さくしたような形だ。この窯が今も使われているのか、ただ残されているだけなのかわからなかった。 「昔はこんな炭焼き窯が、島中あちこちにあったんですよ。島全体が、いい炭のとれる堅い木でおおわれていたから、ごく当然のことなんでしょうけどね」 F君が言った。 「真冬の海水浴場を見てみますか」 F君はぼくの返事を待たずに、海岸への細い道に入った。 小さな砂丘の上から海を見る。動いているものは波だけだ。風と波にならされて、砂浜は絵に描いたように美しい。どこを見ても足跡ひとつない。打ち寄せた波はふたたび海に帰る間もなく、砂に消えていく。空はどんよりと曇っている。水平線と海の境目はひとつに溶け合い、灰色のグラデーションがかかっている。そこでは雨が降っているのか、雲がわき上がっているのか、わからない。が、ただ、そんな空虚な海の風景を見ていて、世界の果てというものがほんとうにあるような気がした。 砂浜に降りた。なにもない真っ白なカンバスのような砂の上に、足跡を残しながら波打ち際に向かう。砂の中に黒いものが埋まり、頭を少しだけのぞかせていた。なんだろう。掘り返してみると、それは直径二十センチほどの浮きだった。網か船につけられていたものが離れ、流れ着いたのだろう。 後ろをふり返ると、足跡がふらふらと続いている。ほんのわずかの距離なのに、ぼくはまっすぐ歩けないようだ。 喜志鹿崎は種子島の最北端だ。海峡をまっすぐ北に向かうと大隅半島にたどりつく。しかし、いくら目を凝らしてもなにも見えなかった。 断崖の上から海峡を見る。潮の流れがはっきりわかる。潮は左から右に向かって激しく流れていた。しかし一つひとつのうねりは複雑に流れ、ぶつかりあい、白い波頭がいくつにも重なる。小さな船が何隻か、波に揉まれるようにして浮かんでいた。ぼくの足元の草木も強い風に激しく動揺している。 「種子島へ 拒めない海」2000年6月刊 再海社 |
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