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田んぼの真ん中に、こんもりと丸い森があった。 「おかしな形だねえ。あれは、自然にできた森じゃないよねえ」 F君はにたにた笑いながら、そう言うぼくを見ている。 「まるで古墳みたいだな。田んぼの真ん中にあそこだけまん丸で、なんか不思議だねえ」 たしかに不思議な形だった。直径は五十メートルくらいだろうか。いわゆる雑木林のようだ。小山の上に生えているのではなく、水田とおなじ地表から生えているとしたら、中央のいちばん高い木は、おそらく二十メートル近くあるのではないだろうか。いや、もっと低いかもしれないが、まわりが水田でその森自体が妙に大きく見えた。 「子どものころからね、この森はちょっとした話題のスポットだったんですよ」 F君はあいかわらずにたにたしていた。 「なんなの?」 F君は急に真顔になって言った。 「ほんとうですよ。ぼくの知り合いの友人も……」 おーい、おーい、と言いながら入っていったそうだ。声がだんだん小さくなり、かすかに聞こえるだけになったので、反対側に出たんだと、みんなで森の反対側にまわったそうだ。だが、そこに友人の姿はなかった。みんなは森のまわりを何度もまわったが、ついにその友人を見つけ出すことはできなかったという。 似たような話は、世界中あちこちで聞いた。森であったり、洞窟であったり、山であったり、谷であったり、さまざまだった。しかし、それはほとんどが「そこには行くな」という禁止の意味で語られていた。 「入ってみますか」 F君がふざけて言った。 「入ってみようかな……。入ってみてもいいな」 しかし、F君はぼくのことばを無視して車をスタートさせた。その時から、頭の中にその森の風景が浮かぶと、ぼくは無意識のうちに、入ってみてもいいな、と心の中でくり返すようになっていた。 「中に入るのかね」 突然背後で声がした。驚いてふりかえった。まわりにはだれもいないと思っていたのだ。老人が一人、にこやかに立っていた。農作業に向かうところだったのだろうか、長靴に作業着、グレーの帽子をかぶり、首には手ぬぐいをかけていた。 「いいえ。不思議な形の森だなあと思って」 老人は笑いながら立ち去った。しばらく後ろ姿を追っていたのだが、いったん森にもどした視線をふたたび老人の背中に向けると、老人はどこにもいなかった。田んぼの中に入ったのだろうかと、あたりの田んぼをくまなく見たが、やはりどこにも見あたらなかった。 「ほんとうに不思議な森だなあ」 森の木を見上げた。 「入らない方が楽しいかもしれないな」 ぼくは森に背中を向けると、門倉岬をめざした。 「この次行くことがあったら、今度こそ入ってみようかな」 「種子島へ 拒めない海」2000年6月刊 再海社 |
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