南ぬ風(ふぇーぬかじ)
 
  (6)ヒージャーおじさん

僕の住居は宜野湾市内のアパートが林立する地域にある。けれど、東側の窓を開けると小さな森になっていて、墓や畑が点々と在る。そこからアコウの木がベランダから手が届きそうな所まで枝を伸ばしている。さわさわさわと葉擦れが心地いい。枝伝いに遊ぶ小鳥のさえずりに耳が慣れて、CDなど音楽をあまり聴かなくなった。以前はハードロックをがんがん鳴らしていたのに…。

アパートから少し離れた場所に小さな養豚小屋がある。離れているとはいえ、小高い丘にあるので、風向きによっては時々それらしい臭気が漂ってくる。
におうことはにおうけれど、“全国統一規格”の鉄筋コンクリートの無機的なアパート群の中にあって、その田舎臭さがまたたまらない。それが魅力でここに住んでいるのかもしれない。

加えて最近、豚小屋の少し下の方にヒージャー(山羊)小屋ができた。
ヒージャー小屋のにおいがまた強烈だ。草と脂がだんごになった糞から放たれる独特のにおいが辺りに広がっている。眼を閉じ、鼻をひくひくさせると、豚小屋のものと微妙にブレンドされた田舎の風が部屋の中を通り過ぎる。ラジオから流れるウチナーグチと三線、小鳥の声につい、うとうとと午睡してしまう。

路地でトラックにヒージャーを載せたおじさんに出会った。2頭は食肉用として売りに出されるらしい。ヒージャーはトラックの荷台でくったくなくポーズを取る。その様子はかわいいが、はかない食用動物のさだめを感じさせもする。

沖縄県民はヒージャーを好んで食べる。野菜をたっぷり入れ、薬味を効かせた汁が主だが、新鮮な刺身もいける。刺身は意外と軟らかい。地鶏よりも濃いエキスを感じさせる味だ。

人によってはヒージャー汁ほどまずい料理はないらしい。くんくん嗅いでみると、強烈な「わきが」臭に似ている感じもする。小屋に漂う臭気を鍋まで持ち込む動物とでも言おうか。その臭いをヨモギの葉を入れることで中和する。

けれど、山羊料理は滋養強壮にとてもいい。ただし、脂分には要注意で、血圧の高い人は急激に上がることがあるからお勧めできない。人間ドック室に勤めたことのある知人の看護師の話だと、血中のコレステロール濃度がめちゃくちゃ高い人に「昨日、ヒージャー食べませんでした?」と質問すると、ほぼ全員「はい」と申し訳なさそうに答えると言うから笑える。

鉄筋コンクリートのアパートもそうだが、数年前から、沖縄本島にもコンビニが「増殖」し、ファミリーレストランのチェーン店なども営業し始めた。店の外観も内装も商品も本土と統一規格の味気ない風景がやたらと目につく。そんな風景の中で、山羊のおじさんなどとたまにかちあったりすると、ほっとする。

 
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