南ぬ風(ふぇーぬかじ)
 
  (7)桟橋の酒盛り

「おーい、一緒に飲まないねー」。冬の夕暮れどき、漁村の防波堤をぶらぶら歩いていたら桟橋からおじさんたちに声をかけられた。

小さな島と本島とを結ぶ橋のすぐそばに漁船数隻が繋げるだけの短い桟橋が突き出ていた。おじさんたちは一斗缶に薪をくべ5、6人で暖をとりながら酒盛りしていた。

道を歩いていて見知らぬ人から酒盛りに誘われたのは初めての経験だ。どちらかといえば人見知りするタイプの僕だが、おじさんたちの人懐こさにひかれ、いつの間にか輪の中に加わっていた。

桟橋に船を係留している海人のTさんが漁を終える時間を見計らって、自然と近所のおじさんたちが集まって来て飲み会になるらしい。会社員や役場職員、この日は桟橋で釣りをしていた青年も一緒に盃を酌み交わしていた。

南国沖縄といえども冬の海辺は強い風が吹いてけっこう冷える。一斗缶から時折、火の粉がはじけ、風向きで自分に向かって飛んで来る。皆それをシャドーボクシングのようによけながら、泡盛を口に運んでいた。

この日の肴はだれかが近くの砂浜で穫った貝のマース(塩)煮。それとTさんがパヤオで釣って来たシビマグロの刺し身も並んでいた。

「ここの刺し身を食べたらスーパーのは水っぽくて食べる気しなくなるよ」とTさん。醤油にコレーグース(とうがらし)をちぎって入れて、それをつけて食べる。本土では経験のない食べ方だ。歯ごたえあるぷよぷよとした食感は新鮮そのもの。コーレーグースがぴりりと味をしめる。おいしい磯の恵みに泡盛のピッチも上がる。

Tさんは若いころ遠洋漁業の船乗りで、遠くはハワイ近海まで出かけ操業していたらしい。50歳をすぎた現在は沖縄本島から少し離れたパヤオと呼ばれる浮き魚礁周辺で漁労を営んでいる。冬場はセーイカ(ソデイカ)、夏場はマグロなどを釣っている。

Tさんから明朝のセーイカ漁に誘われた。僕はその晩、彼の家に泊めてもらい、漁にくっついて行くことにした。

 
(c)Copyright, 2002 John Matsumoto. All rights reserved.